17回目のバレンタインデーもしくは涙の記念日

かすみ草子 | さくらのみや

  17回目のバレンタインデーもしくは涙の記念日  

 ああ、またこの季節が来た……。と、1月のカレンダーをめくり
2月の日を迎えたとき、俺は思った。             
 毎年思ってるんだろうけど、ほんと、年を経るごとにいやになる
よな……これは、きっと、もてない男にとって、クリスマスと並ん
で、二大厄日に指定してもいい。いや、されるべきだ!     
 2月14日、そう、バレンタインデー。もう、それだけで、細か
い説明は不要だろう。ああ……。               
 今年で、俺も17になる。今まで貰ったことどころか、それ
らしい兆しすら無かったもんね。もちろん「本命」のことだけど。
 ほんとに……ああ!くそ、考えるだけで腹が立つ……!!   

 そうは言っても、学校に来て、目の前で、派手にチョコだ何だの
乱れ飛んでるんだ。忘れようとしてもなぁ……。俺の友達では、両
手に余るほど貰っている奴もいるし……。           
 なんだい、バレンタインデーなんてのは、キリストだか、誰だっ
たかの命日だって話じゃねえか。他人に死んだ日がそんなに嬉しい
のかい、おめえらは……って、息巻いて反発してるけど、これって
誰かが負け惜しみで言っていたような気がする。        
 ……待てよ、ってことは、そんなことを考えてる俺は、負け惜し
みで言っているってことを、俺自身で、認めてるってことになるん
じゃないか?くそ、本当に……。               

 そんなことを考えているうちに昼休みだ。          
 この2月14日の昼休みという奴が、我々「負け惜しみ」には厄
介者でな……。                       
 昼飯を食った後、俺は友達と教室で話をしていた。その内容は…
…まあ、どうでもいいじゃねえか。何?知りたいだと?こんな状況
で話をするっていやあ、愚痴以外に何があるんだよ?      
 すると、前ぶれもなくやってくるんだ。2〜3人で集団になって
普段なら俺達に声もかけないような連中がさ、         
「○○君、チョコあげようか」なんて、猿に餌やるみたいにさ。 
 で、飾りっけも、味気もない無い、10個150円くらいのチョ
コの、その内の1個を渡すわけだ。義理にしても失礼だよな、これ
は。                            
 でもって、ここで「俺にもプライドがあるぞっ!」って、怒鳴っ
て貰ったものを叩きつけたくなるよ。「バカにしてんのかっ!」っ
てね。                           
 だけど、こいつらはそんな男の葛藤なんて、全く知らないんだし
ここでいきなり意味もなく怒りだしたところで、自分の評価を下げ
てしまうだけだろうし……。それで、なんとか妥協して、結局こう
思い込むことにしてるんだ。                 
「義理でやろうってんなら、義理でもらっとこうじゃん」    
 そんな風に自棄になりながら、そのくせうわべだけは「え、いい
の?」なんて、遠慮しているような芝居しながら価値にしてわずか
15円の、一噛みで粉々になりそうなチョコを貰うんだよ。なんだ
か、我ながら汚れているような気がするな……。        

 そんな俺でも「遠慮がちに」っていうのは、うーん、何というの
か、心の中に、好きな女の子がいるからだよ。まあ、実らない恋だ
けどな。まあ、席が隣だからよく話はするんだけど……。    
 でも、席が隣なのはともかくとして、普段でも、どういうわけか
俺とよく目が合うような気がするんだ。ただ、それは、本当に偶然
で、俺が意識しているからそう思うだけかもしれない。ただ、本当
に偶然にしても、よく目が合うんだ。どういうわけか。しかも、バ
レンタインが近付くと、彼女のそれは多くなってきたような気がす
るんだ。                          
 それとも、本当に気のせいかな?と、思った瞬間に目があったり
するものだから、いや待てよ、なんて、考えが逆行するんだよな。
 でも、まさか、カウンターを持って、一日に何回目が合うか何て
ことをやるわけにはいかんしな……。             
 で、思い切って告白しようか、なんて思うと、そういうチャンス
がなかなか無くてね……で、今まで来てるんだ。        
 そんな風に、「もしかすると?」期待感と、その答えが出ない狭
間で、心の中が争っているときに、こういうバレンタインみたいな
イベントが起きると、余計に頭を悩ますわけだ。        
 今日は2月14日だ、だから、あの娘が何かしてくれるんじゃ…
…いやいや、それはお前だけの想像で……でも、彼女が最近になっ
て俺をよく見るのは、もしかすると……甘い甘い、そんな物語みた
いなことは……。                      
 それで、毎年「甘い」ことを見せつけられるんだ……。    

 そんなわけで、今年の「涙の記念日」も、はや授業終了のチャイ
ムと共に、フィナーレへと向かう。              
 ああ、今年もか……帰る用意をしつつ考える。そうして、帰る用
意をしながら隣の彼女を見る。彼女は俺の方を見て、何か言いたそ
うにしているように見えるが、これも、俺がそうであってほしいと
思っているからかもしれない。                
 いや、いかん、期待なんかしちゃ。なんでもない、なんでもない
ハハ。そんな期待なんかさせないでよ……。          
 でもって、期待なんかしてないよ、という風に思えば思うほどに
なんだか振る舞いが不自然になってきて……。いかんいかん。  
 その仕草で何かを感じたのか、彼女の方も不自然に、俺の方を見
るのをやめた。                       
 あれは、無意識にでなく、意識してだな……いや、いかん、あれ
は偶然だよな……。                     
 そうやって、今年も、予定どおりだよな……。        

 今年も、一人淋しく家に帰るんだよ。いつものことだ、慣れてる
よ。                            
 でも、それでも期待するもんだ。教室を出るまで、校門まで、家
に辿り着くまで……。                    
 でも、現実はそんなに甘くはないんだ。所詮「自分だけの世界」
って奴だ。                         
 そんなことを考えながら靴にはきかえるために下足所に向かう。
昔からの手口で、下駄箱のなかにも……無いな。        
 仕方なく靴を履いて、校門の方に向かう。心なしか足取りが重い
ような気がする。                      
 と、その時だった。                    
 後から肩を軽くたたく人がいる。誰だろう?         
 そう思って、ふりかえると、そこには彼女がいた。手にはなんだ
か箱らしきものを持って……。                
「あの、これ」                       
 そういって、彼女は、そのきれいにラッピングされた箱を差しだ
す。                            
「ん?これは?」                      
「だって、今日は、14日だから……」            
 いつもと違う調子で、彼女が言う。             
「その、いつも、よく話をしているのに、何もしないわけにはいか
ないでしょ?それで、普段のお礼。他の子に配ったのに比べて、少
し大きいから、教室では渡しにくくて」            
 そういって、彼女ははにかむ。               
「……ありがとう」                     
 そう、俺は声をかけた。                  
「……受け取ってくれてありがとう。じゃ、また明日」     
 彼女はそういって、校門を出ていった。それを、俺は茫然と眺め
ている。貰ったチョコを片手に……。             

 普段のお礼か……少し違うんだけどな……そう思いながら、淋し
い面持ちで、俺は「17回目のバレンタインデー」の家路に就いた
のだった。                         

佐倉純 著 / 掲載サイト:【さくらのみや

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